悪魔の百唇譜
歳若き乙女の母性まで引き出してしまうキュートな男
あけましておめでとうございます。
Q. もしかして昨年2ヶ月坊主だった読書感想文を復活させようとしている?
A. 正解です。
※毎度お決まりにネタバレしています。未読で本作に触れたいんじゃい!という方はご覧にならないでください。
深夜の高級住宅街に停まっていた一台の外車。パトロール中の警官がこの車に不審を抱いたのが醜悪な事件の始まりだった――。トランクの中には、胸をえぐられ、その血溜りに“ハートのクイーン”を浮かべた女の死体が詰め込まれていた……。関係した女たちの性癖を克明に記した「百唇譜」をもとにゆすりを働く悪魔のような男に挑む、本格長編推理!!
ちゃんと調べたことがなかったけど、金田一シリーズで「悪魔の〇〇」というタイトルは頻出です。私はこれの他に『悪魔の手毬唄』『悪魔の降誕祭』しか読んだことがありませんが『悪魔の寵児』もあるようです。
この本を読む前にアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を読んだのですが、金田一しかミステリーを知らない私にとって「見立て殺人なのにこんなに地味でええんか!?発狂する人間を描くのにこんなにあっさりでええんか!?」となる作品で、金田一のこってり具合が恋しくなってしまいました。私は焼肉食べ放題で肉を食う量を減らしたくないがため白米を頼まないタイプ・エロ漫画の女は乳がデカければデカいほど景気が良いと信じているタイプです。 そんな時にふと目に入った積読がこの『悪魔の百唇譜』です。
結果、女の思惑や男の燃え盛る嫉妬・不可解な死体などそのこってりさはまさに蒲田でよく食っていたラーメンさながらのウマさと安心感があったのですが、知名度で他作品から一段落ちるのは納得がいくなぁという作品ではありました。
トランプと一緒に胸元を刺された美男美女の死体、という構図が映像映えはしそうですが、後半にかけては読んでいてもイマイチ犯人の動向に納得できませんでした。
まず売れっ子女優・水原ユカリについて。彼女が自分のポルノ写真を取り戻したいからという理由で殺人に加担する筋書きは、他の横溝作品の美人枠の女たちに比べるとやや浅慮に感じました。「坂巻に本気で惚れ込んでいるから」ならまだわかるんですが、一度男に騙されて写真を撮られたのに、それを取り返すためにまた男を使ったら強請られる相手が変わるだけだというのが思いつかなかったのでしょうか?
坂巻との出会いがサクラっぽいというのに勘づいていたので、なおさら坂巻に自分の芸能人生の命運を預けるような真似はしないのではないかと思います。バカな女だからというのが理由であればもうちょっとバカっぽく書いてほしかったです(?)
また、ユカリが血も涙もない極悪商売女として描かれていたら別ですが、自分の写真を取り戻すために他の被害者女性まで殺す作戦に加担できる肝の太さがありそうにも思えませんでした。
ポルノ写真で女たちを強請っていた奴の黒幕と殺人犯が別であるという点は物語を複雑にしていて面白かったのですが、それが明かされるのがラスト10Pなのでそこからの駆け足な展開に貧弱な脳が追いつこうと必死になりました。 抜け目ない藤野と比較すると坂巻は完全に行き当たりばったりで、読了後に改めて殺人の流れを確認すると**「コイツ運とノリだけで乗り切ってるな……」**となります。
次に「百唇譜」について。百唇譜が造語なのかどうかは知りませんが、セックスした女の唇拓(!?)と具合の良し悪しを書いた冊子のことを指すようです。金田一の時代であれば相当ショッキングだと思うのですが、令和のド腐れインターネットに染まった身だと**「まあ写真つきでセクレポ書いてる男なんてこの世に腐るほどいるわな……」**と納得してしまい、登場人物たちと同じ感情で百唇譜に向き合えず悔しいです。女の貞操が重要視されていた時代だからこその温度感があります。
こう色々書くと「そんなにつまらん作品なのか」となってしまいますがそういうわけではなく、『八つ墓村』『犬神家の一族』などの知名度ある珠玉の作品に比べると劣るというだけで、殺人現場がどこなのか?が二転三転したり、主人の強烈なやきもち焼き性分のくだりなど十分面白かったです。 加えて、金田一が重要な証言とともに歳若き乙女の母性まで引き出してしまうキュートな男であることや、あのモッシャモシャの薄汚い格好なのに現代人から見るとかなり✝️丁寧な朝食✝️を取っていることがわかる生活描写など、他作品ではあまり見られない部分もあって読んで損はないです。
次は『悪魔が来たりて笛を吹く』も積んでるので読もうかな〜(悪魔繋がりで)と思います。


