フランケンシュタイン
ちいかわの対義存在はコイツで間違いないでしょう
私はテキトウにKindleで読めるやつ(上記)を買ったところ訳がまあまあ古く(1953年)、古いだけならいいんですが敬体と常体の混在も意図してるのかしてないのかわからん感じでとても読みづらく難儀したので、表紙が気にならなければ大人しく新訳を買うことをお勧めします……。新訳も角川から出ていて電子で買えるしレビュー評価も高いです。
若く才能あふれる科学者フランケンシュタインは、死者を甦らせることに情熱をそそぐ。しかし、その結果生み出されたものは世にも恐ろしい怪物であった。その怪物は自らの孤独と悲しみから創造者フランケンの愛する家族を次々と襲ってしまう……愛する者を怪物から守ろうとする若者の苦悩と正義、醜く造られてしまった者の不条理な孤独と絶望の運命を描いた、壮大なゴシック・ロマン。
ロマン……ロマン??と思ったけど、恋愛小説でなくてもゴシック・ロマンスというような言い回しをするんですね。
もう記憶のはるか彼方なのですが、大学の授業(一般科目の単位を稼ぐ&& 空きコマを少しでも減らすために英文学科の授業を受けていた)で『フランケンシュタイン』とメアリー・シェリーについて学んでいました。改めて記憶をエンヤコラと掘り返すと本の内容の話は綺麗さっぱり忘れているのに作者のことは結構覚えてます。
- 当時の「ペチコートを着たハイエナ」であるウルストンクラフトと思想家ウィリアム・ゴドウィンの娘
- 2人とも婚姻制度に反対なのに娘のために結婚した(?)
- 上記背景からメアリーも小さい頃から家に本がありまくり、知識階級に囲まれて暮らす
- 妻子持ちの詩人バイロンと恋に落ちてオトンブチギレ、2人で駆け落ち(駆け落ちされた後バイロンの妻は自殺)
- その駆け落ちになぜか義理の妹がついてくる
- 『フランケンシュタイン』は妊娠中に書いてる
↑話の中身を覚えてないのに作者のことは覚えている人、生身の人間にしか興味がなくてキモいですね。 しかしちゃんと通読したことで話の中身まで覚えている人にレベルアップしました。
〜〜〜ここからちゃんと本の感想を書きます〜〜〜
後味が悪い本を久々に読みました(金田一も後味悪いことあるけど、私は犯人と殺人の方法がわかればスッキリするタイプの安直な読者です)。 怪物もフランケンシュタインもウォルトンも全体的に身勝手でゴリゴリ自信過剰なタチの男性で全員好きになれないのですが、唯一そういう自信の暴発的なものがないアンリはなお不気味なキャラクター造形で、なぜそこまでフランケンシュタインに尽くすのか?アンリはフランケンシュタインのどんなところを敬愛していたのか?の深掘りがないままにひたすらに献身的な愛を捧げ続けてくれた上で死ぬので怖い男です。しかし専攻がやたら具体的なのでモデルとなった人物がいるのかと気になりました。
(映像化作品がホラー映画としてブレイクしてしまったがために)よくある誤解として、怪物=フランケンシュタインだと思っていたり怪物の知能が低いと思っていたりというものがあります。怪物はデカさ(2.4m)と強さはもちろんのこと、推定1歳未満で『若きウェルテルの悩み』を読んでウェルテルに同情心を覚えるなどしているため、私の知能を1とした場合に500くらいの知能があります。ちいかわの対義存在はコイツで間違いないでしょう。 フランケンシュタインの独白は「もうちょっと何ぞな考えを持てや」というツッコミどころで溢れかえっているのですが、怪物の台詞は心に迫るものが多いです。
人間はみんな不幸なものを憎むものだから、あらゆる生きものよりみじめなおれが憎まれねばならないわけだ!
弱者ポジションの陣取り合戦場と感じがちな現代インターネットに浸かっている身からすると、しんに不幸な怪物の嘆きと殺意は素敵だなと思います。怪物には母はおらず、父たる創造者は怪物の死のみを祈っており、情けをかけるべき隣人も雨風を凌ぐ家すらなく、これ以上失うものは何もないので好き放題殺し放題なわけです。
しかし「創造主たる父への復讐」を掲げ悪徳に手を染める一方で、「ほなら目につく人間片っ端からシメたらぁ!」みたいな気概でもないというところに怪物の心の輪郭を見出せます。
クレルヴァルのうめき声がおれの耳に音楽と聞こえたと思いますかい? (中略)あんたの嫌悪は、おれ自身が自分に対して感じている嫌悪に及ぶべくもないのだ。
怪物の独白から窺える苦悩と比較するとフランケンシュタインの思慮はあまりにも”””浅”””いのですが、怪物含めあらゆる登場人物から尊敬されるべき人物とされています。怪物からは最後に「人間の中で愛と尊敬に価する者のえりぬきの見本であるおれの創造者」とまで言われています。入れ子構造あるある・大嘘語り手すぎるだろ。 あと、『フランケンシュタイン』において女性は聖母の1パターンしかないと言ってもいいくらい本筋に女は絡まず、フランケンシュタインと相愛であるエリザベートすらもキャラクターが希薄です。ただ嘆くか励ますかしかできないし、その死の影響も、アンリの死の方が(犯人と誤解されて投獄されていたのもあり)よりショッキングに描かれていたように感じます。
フランケンシュタインの浅慮や女性の不在といったわかりやすすぎるツッコミどころに溢れていて、特殊な家庭で育ったメアリーがどういう考えを持ってそれらの穴を作ったのか、というところにフランケンシュタインの背景を紐解く面白みがあるんだろうなと思います。



