仮面舞踏会
とてつもなく行き当たりばったり
読む前から分厚さにニヤついていましたが……お、おもろーーーーい!!!!!!
※本記事にはネタバレを含みまくります。 リンクはアフィリエイトではないため、踏んでも一円も私は得しないのでご安心ください。 今回記事がなんだか長くなってしまいました。
裕福な避暑客の訪れで、閑静な中にも活気を見せ始めた夏の軽井沢を脅かす殺人事件が発生した。被害者は画家の槇恭吾、有名な映画女優・鳳千代子の三番目の夫である。華麗なスキャンダルに彩られた千代子は、過去二年の間、毎年一人ずつ夫を謎の死により失っていた。知人の招待で軽井沢に来ていた金田一耕助は早速事件解決に乗り出すが! 構想十余年、精魂を傾けて完成をみた、精緻にして巨大な本格推理。
読んだきっかけ
船橋駅を出てすぐに「ときわ書房」の本店があります。 寄った際に(普段はあんまり本を買わない)夫をそそのかして「なんか買いなよ😀」と言ったところ、平置きになっていた『ファイア・ドーム』(辻村深月)を上下セットで購入していました。 私のほうは通勤で読む本を買いたかったので角川の棚をぼーっと眺めて、まだ持ってない金田一シリーズがあることに気づきました。 直近で読んだ『不死蝶』はちょっぴり微妙だったものの、それでも金田一大好き太郎なので迷わず購入。以降本棚に放置していたのですが、ヒマができたので読みました。
感想(ネタバレなし)
登場人物がめちゃくちゃ多い(ように感じる)
なぜこんなに多く感じるかというと『悪魔の手毬唄』や『犬神家の一族』と違って家族単位で出てくるわけではないから、だと思います。 あと、過去軸ではなく現在進行形で生きている人物が多い(話が何世代にも跨っているわけではない)点も、どいつがどいつだっけ!?となるのに一役買っています……。
ただ多いなりにもキャラがしっかり立っていて、最後まで読むと気づいたら「どれが誰?」は解消されています。
軽井沢に行ってみたくなる
ド庶民から見ると毎年軽井沢に避暑に行くなんて、別荘があるなんて、そしてその一部を他人に貸し出すくらい余裕があるなんて……と羨ましくなります。
横溝自身も『真説・金田一耕助』で語っていたように、毎年妻を連れて軽井沢へ2ヶ月ほど避暑に赴くそうで、そのおハイソな生活を下地として瑞々しく軽井沢の自然が描写されています。 作中では台風来てるけど。
(しかも公共の乗り物恐怖症だという横溝は全ての移動がタクシーなのでお金持ちってすごい)
あんまり王道ミステリーではない
ネタバレありの方の項目で詳しくは語りたいのですが、読者に犯人を当てさせてあげようという親切心はなさそうです。私がバカなだけかも。 ただトリックの巧妙さという点では他有名作に敵わなくとも、最初にドバーッと登場人物が出てきて、それぞれの行動の思惑がベールを脱ぐように1枚ずつ剥がされていくところはとても丁寧に書かれています。
ここから先は何にも配慮せずに書きます。
感想(ネタバレあり)
犯人と動機について
無理がなかろうか……!? 無理があると言えば同じ金田一シリーズで少女が犯人の『悪魔の降誕祭』も多分に無理があるんですが、一応こちらは遺産という筋道の通った動機があります。
ところが美沙については、実父と思い込んでいた人物からの強姦を受け入れており、「まだ当分オシトヤカな子でいたかった」からという(口封じ的な)理由で3人も男を殺しているツワモノです。青酸カリで殺している点は『悪魔の降誕祭』と同じですが、今回は作中の殺人において死体が車で移動させられていることが明らかになるため、腕力的に少女には犯行が難しいだろうと思っていました。実際には、自分の別荘に死体があることにびっくりした別の男が死体を移動させてしまったというカラクリになっています。
その死体を移動させた男も、一仕事終わって休憩しようとウィスキーを煽ったら青酸カリでコロリ……という非常に不確定な死に方です。
終盤に金田一が自分で言っている通り、トリックというか殺し方(とその後始末)がとてつもなく行き当たりばったりで、「たまたま上手く噛み合った結果犯人がうまいことわからなくなりました(笑)」という筋書きになっています。この行き当たりばったり加減については、「1人目を殺した時に捜査線上にも上がらなかったことが拍車をかけた」と説明されていますが、にしても10代女子を奔放に書きすぎています。
美沙が笛小路の血も千代子の血も引いていなくとも、スキャンダルの種と同時に被害者でもあるわけで、千代子やその恋人である忠熈から手切金くらいはもらえそうですが……。
美沙が衝動的すぎるのはギリ良いとして、問題は田代信吉です。こいつは曲がりなりにも大学という当時にしてはハイカラな場所に通っておきながら、行動に筋がなくナヨナヨしては事件をかき回すだけです。女と心中未遂を起こして自分だけ生き延びたうえに、今度は殺人犯の少女を庇い立てして、よく知りもしない男を遠目から拳銃で撃つという頭の中身がすっからかんの野郎です。
最後は一瞬正気を取り戻して美沙を殺して己も死にきった(ようにとれる描写がある)わけですが、さすが一度死に損なった男、芯がなさすぎますね。
登場人物について
とはいえ、「全員めちゃくちゃキャラ立ちしている」のが『仮面舞踏会』の面白いところでした。 田代だって「芯のないキャラ」として最後までブレずに書かれているのです。
鳳千代子といういかにも昔のヅカにいそうなスタアは最初から最後まで小ざっぱりした性格で、見ていて不快になることもなく。
飛鳥忠熈も筋道立った性格をしており、途中彼の行動や内心が読めずに読者をヤキモキさせる仕掛けはあるのですが、そのハラハラも楽しいです。
忠熈はおもに男からモテ散らかしており、彼の狂信者は複数名出てきます。「どいつが裏切るんや!?」というヨコシマな目で読んでいましたが本当に全員いい奴でした。
あと金田一耕助シリーズは、金田一と張り合うほどの頭脳の持ち主が(犯人以外は)あまり出てこない印象があるのですが、今回は知恵の回るキャラが多いように感じました。
『獄門島』の鵜飼などはぶっちゃけ美青年の無駄遣いだな〜と思わなくもないのですが、今作の村上一彦は金田一に喰らいつく機転の速さです。
忠熈と同じく行動の意図が読めない点もとてもよかったです。



